第22章 郷曲におもむく(身長)
そうはいうも決して華やかなものではない。
暮れ始めた空の下に揺れる橙色や薄紫の花が、疎らな背の高さの野生の草原を彩る。
落ちかけた陽が、数色のグラデーションを巻き込み山間に沈もうとしていて、耳に心地好い虫の音と共に幻想的な景色を作っていた。
夏は夜。 なんてこんな風景の元に謳われたんじゃないのかな。
「桜井さん、こっち」
二ノ宮くんに手を引かれ、花畑の先にあるちょっとした段差を下る。
更に見上げる程の木が何本か林立する、その隙間に出来ている細い道の階段をまた下りる。
その途中。
ふうわりと知っている匂い、というか気配が傍を通り過ぎた。
それが何だろうかと考えてるうちに、耳に入ってくる音が段々と大きく多くなる。
何かを話す。
何かに触れる。
笑い合う。
誰もが知っているその営み。
「──────真弥どの、ようこそ。狼の里へ」
伯斗さんがそう言って入口に座って出迎えてくれる。
私はそれに空返事を返して、ぽかりと口を開けたまま周囲を見渡していた。
いくつもの小さなオレンジ色の灯りに灯されたそこは、大きな木の根に支えられたほぼ地下の部屋。
入り口にある広間は、私のマンションの15畳のダイニング3つ位の広さだった。
そこから八方に広がる、いくつかの細い路が枝分かれした先は、子供の遊具のみたいに小さく曲がりくねりながらまたその奥へと続いているようだ。
首を伸ばして奥の方を見てみると、路沿いに扉がある。
あのような部屋が集まって集落を作っているのだろうと思った。
それよりも圧巻だったのは立っている所から見上げた天井。
自身に張った根を以って、地下の依拠を支えているのは入口に並んでた大木と、その上や隙間にネット状に張られている細かなこれは、あの花畑の根だろうか。
広大で繊細な花根が雨風をしのぎ、木の根がそれらをがっしりと支えている。
伯斗さんに言わせれば、当初ここはただの洞窟だったが元々この造りだったものをゆっくりと広げていったものらしい。