第22章 郷曲におもむく(身長)
反響するひぐらしと葉擦れの音。
多少は高地らしく、元の実家からも若干湿度が少なく思える。
「─────で。 ナビの通りの住所だぜここ? 今度は一体なに……」
……あれっ? 真弥! おーい、まーやーー!
浩二のそんな大声を背に聞きながら、その時私は腰を曲げ、男性一人が辛うじて通れるほどの洞穴の中を進んでいた。
入り口が狭すぎて頭を打ったが、中に入るとそこの上部は漆喰等で固められており、そこそこ頑丈な造りらしかった。
基本的に狼仕様なのね、きっと。
「いたた…その声は二ノ宮くんだね? 迎えに来てくれてありがとう。 週末はこっちに来てたの?」
「ああ、伯斗さんが叔父貴と一緒に招いてくれたのがちょうど今日でさ 」
私の前をおしりを向けてすたすた歩いてるのは狼姿の二ノ宮くんだ。
雪牙くんより少し大きな体。
どうやら狼の時の大きさと人間時のそれ(推定166)は比例するらしいのだと推測する。
「母堂様が桜井さんも来るんなら、どうせならみんな一緒に歓迎会でもしようってさ。 あれ? でも、今日はあの人は一緒じゃないの?」
「歓迎会……」
自分の息子の非常時に?
「まあ。 分かってるんだけどさ……俺に向かっての第一声が、まだ子供の息子にも負ける様な軟弱者はもっと鍛え直してこい、だって。 キョーレツだね、あの母親……桜井さん、ちょっと失礼するよ」
「えっ……ひぁっ」
洞穴の外に出て人の姿に変わった二ノ宮くんがひょいと私を腕に抱えて肩に上げる。
目の前には鬱蒼とした樹林。
道などは見当たらない。
「夜んなるまで桜井さん連れて来ないと今晩酒抜きなんだってさ。 触るとあの人に怒られそうだから、ナイショな。 あ、俺言っとくけど狼の女にしか興味無いし」
「だから私も二ノ宮くんの好みには興味無いってば」
ははっ、ひでえな。 ひと言そう言ったあと、二ノ宮くんが地を蹴って走り始めた。