第3章 推されても困る
うむむ。
営業マンに商品を推されてる気分だわ。
改めて半分枕に埋もれてる琥牙の寝顔を見ると、まだ少年らしさの残る柔らかそうな頬。一方意志の強そうな眉から伸びる、品の良さげなすっとした目鼻立ち。
今がこれならおそらく何年か後にはかなりの美形。
こう見えても頼れてしかも家が金持ちとくる。
それに性格が合う、とはいってもそれは琥牙がとても良い子だからだ。
意地悪な相手に優しく出来る程私は善人じゃない。
狼だろうと何だろうとこの際。
これは一介の女性会社員にとっては、一生に一度あるかないかの良縁なんじゃなかろうか。
……けれど。
細くふっと息を吐いてから、私は琥牙から視線を外した。
「私が選ぶ事じゃないですから」
「? 真弥どの。 それはどういう……」
それきり口を閉じた私に伯斗さんは怪訝な表情をしていた。
再び帰って行く彼を、ベランダから見送った後の私もまた複雑な気分。
「……ん───」
空いているベッドの脇に体を滑らせると、片方だけ薄目を開けた琥牙がいかにも眠たげに寝返りを打つ。
こうやって添い寝するのにもすっかり慣れた。
「起こしちゃった? ごめんね」
「……伯斗帰った? あいつ、話長いから」
「だからって私に押し付けないでくれる? そもそも話の内容も、ほぼ琥牙の事なんだし。 伯斗さんが嫌いなの?」
「……嫌いじゃない。 ただ心配性過ぎるんだ。 一族や真弥の事が大事なのは分かるけど」
それだけじゃないと思うけどなあ。
伯斗さんって親とは言わないまでも、時々お孫さんでも見るみたいな目つきで琥牙を見てる。