第3章 推されても困る
「いっつも大体言う事は分かってるし、おれの様子見に来たいってのは口実だと思う」
「口実って何の? で、なんで私も? 部外者なのに」
彼のアーモンド色の瞳がぱかりと開く。
そして私の首の後ろに手を差し入れた。
何か言おうとか、反応をする代わりに私の足先が数度シーツを滑る。
「琥……」
乱暴に強く押し付けられた唇。
一方、数秒後に離れたときはその手も口も、もの凄く丁寧だった。
離れるのを嫌がるみたいに。
私は何が起こったか分からなくって瞬きさえ忘れてた。
「ああいう時の後って滾るのかな」
軽く体に重みを感じたかと思うと肩に顔を埋めてくる。
首筋に口を付けられて、彼の胸を押したのは反射的な行動だった。
「……な、なんで?」
こんなの今まで無かったのに。
そう訊ねた私を琥牙が真っ直ぐに見返す。
「部外者なんて言わないで。 分かってるくせに」
動けないでいる私から琥牙が視線を外した。
僅かに眉根を寄せた、男の表情だった。
「ダメだよ。 真弥」
──────ダメだよ
主語さえ無いその言葉がぐるぐると頭を回る。
琥牙にはいつもみたいに分かっていたのだろうか。
柄にも無く私が怯えていた事。
彼が寝返りを打つ度に目が覚めて。
お陰でその夜私はなかなか寝付けなかった。