第21章 望まない変化の襲来
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「覚えてない……?」
意識の無い雪牙くんの手当に手を動かしながら、琥牙が小さく頷いた。
伯斗さんは無言で座りそれを見守っていた。
彼の言葉に琥牙を見詰めてしまう私に構う余裕がないのか、彼は雪牙くんの傷に注力している。
雪牙くんは伯斗さんに似て、元々首周りの毛が特に多いタイプだ。
そのせいで大きな脈を傷付けられなくって良かった、と。
「雪牙は治癒力も並じゃないから後遺症も無いだろうけど、しばらく動かさないように大人しくさせなきゃ」
「里で看護の者をつけますか?」
「そうした方がいいね。 でも、もう少し力を加えられてたら首の骨が折れてる所だったよ。 そうならなかったのは暴れなかったせいだろうね」
「雪牙様らしくありませんな」
ついと出てしまった言葉に伯斗さんが出過ぎたことを……、と付け加えた。
「こいつは相手がどんなでも怯むような性格じゃないんだよ」
伯斗さんの急襲から目が覚めた琥牙は熱も引き、外見と共に何事も無かったかのようにいつもの彼に戻っていた。
最初私が雪牙くんの手当をしようとしたがそれを制して自分の方が慣れてるから、と琥牙が引き受けた。
今テーブルの上に並んでいる消毒薬や抗炎症剤という薬は琥牙の里で作られたものだという。
雪牙は昔から怪我が多かったから、慣れてるんだよ。 それだけ言って雪牙くんに向き直った。
そして当然こうなった経緯を琥牙に話す事になったのだが、事情を話していくうちに彼の表情が固いものに変わっていく。
なるべく感情を込めずに私は高熱を出していた琥牙が急に狼に変わった事と、雪牙くんの身に遭った事を話した。
「本当に……記憶にない。 おれが雪牙をこんなにしたなんて」