第21章 望まない変化の襲来
雪牙くんの方は躊躇っていた。
ジリジリと距離を保ちながら何かの機会を伺うように。
その雪牙くんがチラリとこちらに向けた目線から、私に逃げろ、と言っていると咄嗟に察した。
「…あっつ!」
次の瞬間、私の肩に大きな爪が乗り床に伏せられたかと思うとギャウ!! という鋭い悲鳴が耳に入った。
「見え透いてんだよ」
首だけをそちらに向けると私と同様、床に押し付けられている雪牙くんの、琥牙の牙が食い込んでいる真っ白な首からは血が滲んでいた。
辛そうに息を荒くして、それでも琥牙を睨んでいる。
「止め……雪牙くんを、傷付けないで!」
事前に動きを察したのだろうか、私の体も押さえ付けられて動けない。
彼のたった片脚だけで。
見慣れているはずの彼らの牙や爪がこんな風に使われるのを見た事がなかった。
それでも動くとその鋭い爪が私の肉を破るだけなのだと容易に想像出来た。
「……ああ、お前ももしかして、この女狙ってたとか?」
「…………ッ!!」
一瞬両顎にグッと力を込もったと思うと雪牙くんの顔が激しく歪み、四肢がビクッと一度痙攣した後に琥牙の歯がそこから外された。
「雪牙くん!」
目を見開き、フッ、フッと息をしてはいるが雪牙くんは横たわったままそこから動けない。
「逆らう理由なんてそれしかないもんな」
私に向き直った琥牙が再び覆いかぶさってくる。
「そっからのんびり見てろよ」
「……止め、て!………きゃああっ!!」
下着の隙間からねじ込まれた舌が強引に肉を割り、その痛みと嫌悪の衝動に悲鳴をあげた。
「……あんまり簡単に壊れてもつまんねえ」
固く目を閉じていて、再びそれを開けた私の目の前には見慣れた人の、彼の姿があった。
ただ、やはりその違和感は全く変わらない。