第20章 月下の交合*
「……私には、分からないのです」
背の高い彼を見上げてその瞳を見詰めていると、似たような瞳を持つもう一人の事を考えてしまう。
それでいてこの人には自分の心の内を話すことが出来る。
「私は人だから分からない。 琥牙や他の狼たち、彼らの気持ちが」
「……人だからというものではない。人間同士でも分かり合えない事など儘あるだろう?」
違いが分かるのなら自らの立ち位置は決めることが出来る。
人同士ならそれが出来る。
けれど、その思いを想像さえ出来ないなんて。
「そんな風に相手に寂しさを感じるのならば、それはそなたらが本当に愛し合い始めたという証だろう」
「愛し始めた……」
空に視線を移してそれを反芻する私に、供牙様は探るような目を向けた。
「それに、今宵のお前からはどこか満たされぬ雌の匂いがするぞ。 そのせいもあろう。 存分に可愛がられなかったのか?」
「え………」
そうなのかな?
そういえば、今晩だけじゃなくここの所の彼はやけに淡白でもある。
「私の子孫ともあろうものが不甲斐ない。 こちらへ来るがよい」
そうしていきなり肩を抱き寄せられ、驚いて身を引こうとしたが、首すじに息がかかって地に縫い付けられたみたいに動けなくなった。
「あっ……駄目です、いけません。 私には琥牙がいますから」
つられて、まるで江戸時代みたいな言葉はふざけてるわけではなく。
せめてもの抵抗も、私に触れるその僅かな空気の振動で先細りとなって消えていく。
「あれは私とは同体と言っていい」
指でずらされた胸元からこぼれた乳房にねっとりとした舌が這い、思わずびくりと上体が跳ねた。
「ああ、美しくかように甘い……」
手で掬われ包まれた胸の肌を、先端の周りを濡れた彼の粘膜の跡を残していく。
「や…ッ……あ……」