第19章 狼社会の不文律
私は大根のキムチなんかをちびちびとつまみながら、独特の香りのする紹興酒を味わっていた。
週末はコレですよ、これ。
「そしたらわざわざ、なんで仲間になんて?」
「そこはアレだよ。 狼としてのアイデンティティっていうか。 野良は野良で気楽なんだけど、成熟してくるとやっぱり俺らには強いリーダーや仲間が必要なんだよ」
「ふうん……そんなものかな」
でも確かに就職するなら、大企業がいいかもしれないしね。 我ながらいい例えだと思って言ったのに、二ノ宮くんになんだか冷めた目をされた。
「あのさ。 狼の位って単に血筋だけじゃないの。 電車で一時間以上離れた所から先の異変感じるとか、普通じゃないの。 黙ってても同族には分かるんだよ、そういう違いが。 出来ればその前に、一度本人とやってみたかったのは本音なんだけどね。 同じ直系でも弟位はってのも思ったけど、子供であの強さだし」
「はあ……」
そう熱く語ってくる彼を眺めながら、琥牙が里から逃げたいっていう気持ちを私は何となく理解した。
確かに面倒そうだ。
「でも、やっぱりあの人には勝てない。 叔父さんでも彼には手を出せなかったと思う」
「そうなの? けど、琥牙って本当は喧嘩とか嫌いだよ」
雪牙くんとかに較べたら。
そんな私に至極真面目な表情で、でも抑えた小声で二ノ宮くんが言う。
「あの人はきっともう血の味を知ってる。 何人か何匹かは知らないけど」
それって。
『小競り合いなんて下らない』
そう言ってた琥牙。
今日だってどちらかというと、揉め事の後処理に来た感じだった。
「そんな冗談……今どき」
神妙な顔で二ノ宮くんが私を見つめる。
「そういうのも俺らには分かるんだよ」
私は彼の事を理解してると思ってた。
けれど何も見えてなかったのではないだろうか。
彼らには分かる事なのに?