第2章 狼を拾う
思わず私がぐいとその足首を掴む。
「眠くないの? 真弥」
「ここにソファーベッド作ってあげたでしょ? それにちゃんと歯磨きしなさい」
先ほど私の寝床の反対側に作成しておいた簡易ベッドを顎で指す。
「歯磨きはする。 でもそっちはやだよ。 ベッドのがいい匂いするし、ここで真弥と一緒に寝たい」
「一緒に……って、琥牙はそんな歳じゃないでしょう」
小さい幼児じゃあるまいし。
加えて言えば大人の男でもない。
彼の扱いに困っているのが正直な所だった。
「平気だよ。 おれ出来ないから」
「出来ない?」
「うんまだ。 ごめんね。 真弥はおれの伴侶なのに。 でも、そのうち寝かせない位になるから」
伴侶じゃない。
そして謝られても困る。
「……随分と生意気な口利くのね」
腰に手を当てて呆れ口調になってしまった私に彼が首を傾げている。
意味わかってんのかな?
すっかり毒気を抜かれた気分になってしまった私は仕方なくシングルのベッドに並んで横になった。
灯りを消すと琥牙が私の肩口にすり寄って来る。
目線だけちらと横を見ると彼は心地良さげに目を閉じていた。
家に連れてきた時もそうだったけど、私、この子には結局負けちゃうんだわ。
そういや出来ないって、物理的に?
やはり狼の世界はよく分からない。
なんとなく実家の弟がまだ小さかった頃を思い出した。
「まあ、いいか」
どちらにしろ独り身の気ままな暮らしだし。
私のいつものおおざっぱ。
それに琥牙に対して。
放っておけない感情が芽生えてるのは確か。
しばらくして早々に彼の寝息が聞こえた。
彼にそういう欲が無いのに私に執着する理由。
……琥牙は気付いてないみたいだけど、伯斗さんが似てるって言ってた。
きっと彼は私の事、亡くなったお姉さんみたいに思ってるんだろう。
お父さんもひょっとして亡くなってるのかな?
この歳じゃまだ寂しいだろうに。
人間は……私の初恋はどんなだっけ……?
そんな風にうとうと考えていて。
肩に心地よい重さを感じつつ瞼が落ちていった。