第2章 狼を拾う
「襲うって?」
お風呂上がりでサッパリした顔の琥牙が、カップアイスを美味しそうに頬張りながら訊いてくる。
そんな様子が可愛いくてついこちらの顔が緩む。
っと、いけない。いけない。
「傷付けたり、食べたり?」
「無いよ。 じゃなきゃおれの母さんなんて、とっくに死んでるし」
「それもそうか。 んで、やっぱり満月の夜に狼になるの?」
「大体は。 でもそのうち父親がそうだったみたいに、好きな時に変われるようになるって」
『そうだったみたいに』
過去形らしい。
若干引っかかったが、今の所はそれに触れるのを止めておいた。
「あと、大人になって狼になれないと何か不都合があるの?」
「潜在的に出せる力が違う。 体力や知覚も色々。 今のおれは並の狼と同じかそれ以下で、そうするとリーダーが不在のままになるから、外の普通の狼の群れとかから領地を狙われる事になるっぽい」
他人事みたいにサラッという。
しかし元が人間じゃないんなら、妙に力が強い理由も分かるような気がする。
試しに、という訳じゃないが泊斗さんから貰った石。 フリスビーはあいにく無いし。
俯いてアイスを掬っている彼に向けて、ぽんと放り投げてみた。
難なくそれを受け止め、琥牙が手の中の石に視線を移す。
狼以下とは言うが、私から見れば妬ましい程の反射神経である。
「これ伯斗が置いてった?」
「そうだよ。 何なのかよくわかんないけど」
「オパールって鉱石だよ。 お店で売るといい。 だからまたこのアイス買ってね」
そう言って、もそもそと私のベッドの毛布の隙間に潜り込もうする琥牙。
「待った!」