第2章 狼を拾う
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そうして琥牙と暮らし始めて、二ヶ月が過ぎた頃。
「伴侶を守ろうとするのは狼の本能ですから」
そんな伯斗さんの言葉通り、彼は実に立派な護衛だった。
ヤンキーの暴漢から道端の水溜まりや果ては家のゴキブリまで。
私に害をなすものを取り除いてくれる。
雨の日には傘を持って駅まで迎えに来てくれた。
「真弥。 今日もお疲れ様」
改札をくぐった先で私を待っている琥牙。
いつも犬みたいに嬉しそうに寄ってくる。
「どうして? 今日は朝から晴れてるけど、もしかして今から雨が降るの?」
やはり半分は動物だけあって彼は勘がいいし鼻が利く。
彼のお陰で今や私は天気予報を見る必要性が無くなった。
「今晩はずっと天気いいはずだしそういう訳じゃないけど。 真弥あんまり体調良くなさそうだったから」
「そんな事まで分かるの」
確かに生理日である。
普通ならそんなものに気付かれるのは気味が悪い。
だけど相手が相手だけに感心してしまった。
「真弥の事なら大概分かるよ。 曇りの時は頭が痛そうだし。 胃が弱いくせにお酒飲むのと渋いオジサンの声にすぐ発情するのはどうかと思うけど。 朝ストッキング履くたびにコケそうになるし、疲れてるのに無理したりおれに気使って嘘つく時も匂いが変わるよね。 あ、今日買い物に行った時生理用品切れてたからついでに買い足しといたよ」
得意げに語る琥牙。
ごめんやっぱり少し気持ち悪い。
「……高精度のストーカーみたいね」
「ストーカーってなに?」
最初のひと月、彼は家のネットで色々勉強していたみたいだった。
二ヶ月の間にこちらの生活にも慣れたらしい。
「今晩真弥には温野菜のサラダ作ってあげる。 体があったまるって書いてあった。 で、おれは真弥のハンバーグが食べたい」
「何それ。 私にも肉寄越しなさいよ」
「だって真弥、ダイエットしなきゃって言ってたよ」
「するから! 明日からするから」
琥牙がくすりと笑って私の手を取る。
いつも手を繋ぎたがるのは彼の癖。
「昨日もそれ言ってた。 けどダイエットの必要なんてないのに」
「……身長あるから気を使ってんの」
特に着痩せするタイプの琥牙と並ぶと余計にそう思う。
彼の性格は最初の印象通り素直で鷹揚。 私と琥牙は人種や歳の差を超えてとても気が合った。