第16章 月色の獣 - 在る理由
その翌朝にまだ夜着のまま、淡く朝陽が注ぐ裏庭に出た供牙は加世の面影を探していた。
まだそこかしこに残っている。
久しく見せなかった穏やかなその姿に見とれていた雌の狼が恭しく頭を下げた。
「供牙様。 お子の事は私達にお任せ下さい」
「私と加世の子だ。 きっと強くなろう。 くれぐれも頼む」
何匹かの若狼と雌狼に村の後を託し、供牙は薄紫の花の茎をそっと手折ると懐に入れた。
「……傍にいると約束をしたからな」
加世が大切にしていたこの畑。
例えそれが石くれでも私はきっと守るのだろう。
結局私達は最期まで分かり合えなかったのかも知れない。
『幸せって、何かを作り出す事だと思うの』
そう言っていたお前の幸せのために戦おう。
何かを作り出せる世にする為に。
ようやく、この力の使い道を得た様な気がする。
笑えはせずとも供牙は安らいだ表情で再び家屋に戻って行った。
死地に向かおうとするこの高揚は私の誇り。
もうお前は泣かなくていい。
そして私はそれによって悲しむ事ももうない。