第15章 月色の獣 - 新月に疾く
「どうか供牙」
あなたの力を今少しだけわたくしに。
「加」
「旦那様!!」
女の所業とは誰も想像出来なかった。
目にも止まらぬ速さで主人の手から脇差しを奪った加世は、そのまま躊躇いも無く父親の胸にそれを深深と突き刺した。
「お父様。 申し訳ございません」
「加世……」
あっという間の出来事だった。
父親の瞳から光が消え、周りの男達が加世に向けて一斉に飛びかかり切り付けたのは同時だった。
「加世様あぁっ!!!!」
得体の知れない化け物と対峙するのは戸惑っても、普通の人間である娘が親殺しをした。
それはそうする理由としては充分に容易いものだ。
───────冷えてゆく体を温めてくれる
これは、供牙?
あの納屋でわたくしによくそうしてくれた様に。
わたくしが悲しむとあなたがそうなるのと同じに、あなたの悲しみや怒りも分けて欲しかった。
それでもひとつだけ。
あなたは元の主人を殺める事はもうない。
ひとつだけでも、あなたの悲しみが減らす事が出来た。
『もう二度と、置いていかないのなら』
『約束する』
さればどちらかが生きる限り、
わたくし達は共にいましょう─────────────