第15章 月色の獣 - 新月に疾く
頭上から低い唸り声と共に人騒ぎの渦中……丁度加世と主人の間に降り立ったのは黒燻色の大きな狼だった。
「黒銀」
「加世様。 遅れて申し訳ございません。 まさか……」
黒銀は地に頭と膝をつき血溜まりの中にいる庭師を見下ろし、そこから眉を寄せて視線を外した。
「供牙様はあの男を助けようとしたのです。 あのまま少しばかり置いて言葉さえ失えば、話せないならばそれで充分なのだと」
「黒銀、なぜここに? 供牙は……他の皆は?」
「私一人です。 私はこの男を殺す為に追って来ました。 ですが必要なかった。 ……身をもって加世様を庇って下さった」
『は……話してるのか?』
『まさか。 犬がか』
『犬にしては大きい。 ……土地の犬神やもしれぬ』
『そ、それならば祟りがあろう』
二人が話している間、他の男達は大いに狼狽え遠巻きに成り行きを見守っている。
武器を持った者がざっと見て6人。
……加世を庇ったまま戦えるだろうか。
それは黒銀には絶望的と思えた。
しかし後退は有り得ない。
今村に来られたら薬で眠り込んでいる供牙様は終わりだ。
「私のせいで」
黒銀がギリギリと歯を噛み締め、後ろ脚で力強く地を蹴ったと思うと、あっという間にその中の一人に踊りかかった。
「うわああ!!」
「ギャッ! わ、うわ……グウッ…ぐ」
バキバキ、ゴキゴキという太い骨が折れる何とも言えない音に誰も動けない。
やがて灯りの下に現れた黒銀は一人の男の首を咥え引き摺っていた。
既に事切れた様子の、血濡れの人の形をした物を晒す如く中央へと放り投げる。
首の肉がちぎれかけて曲がり、地面にぐしゃりと打ち捨てられた男の死体を見て、残りの男達は震え上がった。
「ひ………」
「……うっ」