第14章 月色の獣 - 狼の里*
平静を装っていた供牙が痛い程傷付いている事は理解していた。
止めどなく溢れくるこの涙は彼の為でもある。
本来ならば、わたくしがそう決断すべきだった。
そうせずともあの庭師をここに招き一緒に暮らすという別の道もあったのかも知れない。
結局何も言えず出来もせずに泣き喚いていたばかりのわたくしは、嫁入りをしたあの家に居た頃と何も変わってやしない。
それでなくとも今まで随分とたくさんの人を傷付けた。
自分が供牙にそうさせたのだ。
「もし、わたくしにも力があれば」
それならばせめて辛い気持ちを彼と分け合う事が出来たのに。
二人でひっそりと終わらせる事も出来たのに。
そう思った直後、泣き疲れて静かに眠る子に目を移す。
この子さえ守れれば。
……この気持ちは、供牙のわたくしに対する思いと同じなのだろうか?
嗚咽が治まり虫の声が止んだ隙間に耳に届いてくる。
細く、低い呻き声。
耳を澄まさないと気付けなかった。
「…………?」
村の隅近くにある小屋の方向だ。
血の匂いに煽られた狼達が村を離れていたせいでその場に居ないのは幸運だった。