第14章 月色の獣 - 狼の里*
「……今晩は同胞達もよく眠れぬ様だな」
幾重にも重なる遠吠えは流れた血の匂いのせいなのだろう。
それは供牙も同じだった。
あんな事をしたというのに、ほんの刹那湧き上がった陶酔にも似た感情が今もどこかにある。
こうやって傍らでは伏せって涙を流し続けている最愛の妻がいるというのに。
その体に猛る楔を打ち込んで鎮める事が出来れば。
柔らかな肌に触れながら、いつもの様に安穏と眠りに落ちる事が出来るならば。
けれど高波の様に自分に押し寄せてくる加世の悲しみが供牙にそうさせる事を許さない。
そしてもう一つ。
未だ彼女から受けた事の無かったこの思いは加世の怒りだ。
いや、そうだろうか?
確か以前に。
「何にしろ、今夜は私はここに居ぬ方がいいな」
優しくする事は出来ても謝る気はない。
慰めなど役に立たない。
加世にかける言葉が見付からなかった。
供牙は静かに室をあとにし、村の同胞の中でも彼が一番信頼を置いている仲間の所へと向かった。