第14章 月色の獣 - 狼の里*
新月か。
外の暗い闇には光が無く、家からこぼれるほんのりと灯された灯りのみがその場を薄暗く照らしていた。
「……私は人ではない」
潰れそうな胸の痛みは加世のせいだ。
加世に呼応する悲しみがそうさせるのだ。
だから決して順番を間違えてはならない。
眼前には静かな表情で目を閉じ跪いている庭師がいる。
もう老いて、生きても後は十年か二十年か。
「恨むなとは言わない」
男が狼の姿の供牙に視線を上げ、表情を歪めると顔の皺が深くなった。
「……供牙。 泣かなくてもいいんだよ。 おまえにこんな事をさせる私を許しておくれ」
「────────供牙!!!」
加世の悲鳴と庭師の叫び声が同時に闇に包まれた村に響く。
そしてその騒ぎの後になかなか止まない子供の泣き声の他は、ひっそりとした元の静寂に戻っていった。