第14章 月色の獣 - 狼の里*
「加世様……お子を持ったのですね」
「はい」
加世が抱いている子に視線を移した庭師が、この場にそぐわない様子で唯一無邪気な笑顔を見せる幼子に顔を和らげる。
「供牙の言う通りなのかもしれない。 今度は子をも守ろうとしているおまえの気持ちを、私はまた無下にする所だった」
「………加世や子供に見せるものではない。 男を村の裏の広場へ連れて行け」
「供牙!?」
供牙が衣の裾を翻しその室を出て行く。
部屋にいた狼達が立ち上がり、加世を取り囲む様に行く手を阻み、もう一手の4匹が庭師の元へと歩いて行った。
「恭牙!! やめて、お願い! お前達。 離しなさい!」
素直にそれらに従い、ついて行こうとする男に較べ、悲鳴を上げて狼達を振り切ろうとする加世の方が彼等の手に余った。
「加世様、堪えて下さい。 あなた様とその子、同胞達を守るためです」
言葉を話せるその中の狼が、加世の着物の肩に歯を食い込ませて立ち上がろうとする彼女を止める。
「嫌よ!! 小さい時によく遊んでくれたわ。 あんなに、供牙の事も可愛がって。 人のする事じゃないわ!」