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オオカミ少年とおねえさん

第14章 月色の獣 - 狼の里*




「久しく忘れていたがそういえば、お前の実家は薬屋だったな」

「ええ。 多くを持つあなたと違い、わたくしが唯一天より賜ったもの」

「お前はたまにおかしな事をいう」


「……そしてそれは、この子もおなじ」


生まれた時は人だったのに、今は仔犬の二人の子供が供牙の膝の中で目を閉じて眠っていた。


「こうやってると、あなたの小さな頃そっくりだわ」

「ははは。 私にそう言われるとまた意味合いが違ってくるな」


二人はずっとこんな毎日であればいいと思った。

それはやっとつかんだ幸福なのだと、決して簡単には得る事の出来ないものなのだと解っていたから。


「供牙。 わたくしは思うのだけど、幸せって何かを作り出す事だと思うの。 生まれる子供たちや傷付いた皆を助ける自然の恵み。 あの家にいた頃は、そんな事を考えもしなかったけれど」

「……そうだな」


否定はしない。

それは真理なのだと解っていてもただ。

大切な加世をあんな風に傷付けた人間たちの事を考えると供牙はたまらなくなる。
加世を初めて抱いた男の事を思うと、赤黒い炎にも似た感情に押し潰されそうになる。

けれどそんな事を口にすると加世は悲しむだろう。

体や心を寄せる程、供牙には彼女の心情が視えた。

顔を見るより先に匂いが、声が、供牙にそれを告げるのだ。
加世が悲しむより早く供牙は狼狽え、それから堪らない気持ちになる。

……知らないふりをしてやり過ごせるのならそれは容易い。

加世がもう泣かずに済むのなら。



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