第14章 月色の獣 - 狼の里*
ようやく都や町の人の目の届かぬ山里に二人は辿り着き、粗末な家を譲り受けて暮らし始めた。
当初は慣れない生活や旅の疲れもあり、病気がちだった加世も段々とそこに慣れ、やがて供牙の子を身ごもった。
産まれた男の子供は人の形をしていたが、どこか普通のそれとは異なる匂いを供牙は感じていた。
それから今まで知る事は無かったが、自分以外にも人の言葉を話す狼は存在してたようだ。
人間に姿を変える事が出来、力と人智を超えた能力を持つ供牙の元に、どこからともなく同胞が集まってきた。
ただの狼もいたし、言葉を話し理性的な供牙に限りなく近い者もいた。
***
里は少しずつ栄えていき、それでも目立つ事を嫌う供牙によって、ひっそりと五十も超える狼と唯一の人間である加世による、小さな村へと成長していった。
土地は狭くとも整えられ豊かに実る田や畑、森の小動物や小川にいる魚の恵みで、供牙たち家族も食うに困る事はなくなった。
彼女が好んだあの薄紫の花は、血に良いものとされる益母草という薬草だった。
庭にはそれらを始め、怪我や病気に効果のあるという様々な野草薬草が植えられた。
体調の不良を訴える村の仲間を加世はほぼ独学で看た。