第2章 狼を拾う
「それに身寄りの無い少年の面倒を見て下さろうとした、今時お優しいお心を持っていらっしゃるようです。 代々琥牙様の家を護ってきたこの伯斗、微力ながら私もお近くでおふたりを見守っていきたいと思っております」
そして伯斗さんは首の間のふわふわからするりと何かを引き抜いたかと思うと、私の前の床にぽとりとそれを落とした。
七色の万華鏡みたいな塊。
「何これ? ……随分とカラフルな石? だけど」
「南方でしか採れないとされる石です。 人の世界では物理的に色々入り用でしょう?」
経済的な事?
確かに下宿人が増えるとなると、お金も余分にかかるのかもしれない。
それでも手に取った私は伯斗さんにそれを返そうとした。
答えは簡単。
モノなんかを貰ってしまうと途端に責任が重くなる。 契約書を交わすようなものじゃないの。
「真弥ー!助けて。 なんかこれヌルヌルするんだけどー!!」
伯斗さんとそんなやり取りをしていた時、バスルームの扉が開いた音がして、琥牙が騒がしく私を呼ぶ声が聞こえた。
「どうかした?」
そちらの方に気を取られていると、その隙に部屋を出た伯斗さんがベランダの外にある塀の上にひょいと飛び乗っていた。
「あっ。 待って伯斗さん!」
ずるい、せめてこれ引き取って。
「また参りますので。 真弥どの」
次の一言を残してふっとその姿が闇に紛れて見えなくなる。
「……くれぐれも琥牙様をよろしくお願いいたします」
よろしくされちゃったよ。
ここはマンションの三階だけど、あの羊並みの体の大きさなら多分平気なんだろうか。
「もう、伯斗さんってば言いたい事ばかり言って……」
そうぶつぶつ不平を漏らしつつ、バスルームの扉からびしょ濡れの顔を出している琥牙の元に向かう。