第7章 疑惑
赤:「流石だな。よく頑張った」
先ほどの声音のまま赤井さんは言い、私の頭を優しく撫でる。
その手つきがあまりにも心地よく、私は全身が高揚感に満たされるのを感じた。
そして、赤井さんを呼び止めた最初の理由を忘れそうになる。
そのことに気づいた私は、そっと目を開けて赤井さんを見つめ返した。
『赤井さん…この1ヶ月、本当にありがとう!私が頑張れたのも、陰ながら護衛をして貰えたからよ…』
赤井さんは、私の言葉に一瞬だけ考える素振りを見せてから、口を開いた。
赤:「ああ。ハンスから聞いたのか。気にするな。言っただろ?「今は、気づかれないように俺が守ってやる」と」
『ええ』
私は、サンクチュアリ号で彼と出会った時の事を思い出す。
『いつも変装していたの?』
赤:「変装していたときもあるし、遠くからスコープで見守っていたときもある。ただ、いつも見守っていたことは変わらんよ」
愛おしそうな目を私に向けながら、答える赤井さん。
その姿に私は、錯覚しそうになる。
(私だけを守ってくれるPrinzだったら、もっと嬉しいのに…)
しかし、赤井さんが私に向けるその眼差しは、私も含めた彼が守ろうとしている全ての人へ向けられているものだと私は思い直した。
『ありがとう。そして、これは私の我が儘だけど…これからも、よろしく』
赤:「言われるまでもない」
言葉はぶっきらぼうだけど、彼の優しさが溢れる返事に私は愛おしさを覚えた。
(ああ…この人は、どこまでも守りたいものへの愛情が強いんだ)
そう思いながら、私は彼への独占欲が湧いてくるのをそっと、心の奥底に沈める。
そして、彼に気づかれないように努めて笑顔を浮かべる。
『また、明日も任務なの。準備のために、ここで失礼するわ』
赤:「ああ。無理はするなよ?」
赤井さんは、また私の頭を優しく撫でて、喫煙室へ向かっていった。
『もう…』
誰にも聞こえないように、私はそっと呟く。
(こんな立場で出会いたくなかった…)
そう密かに思いながら、私はその場からしばらく動くことができなかった。