第7章 疑惑
『貴方もお疲れ様』
降:「電話、ジンから?」
『ええ』
電話のやり取りを知ってか知らずか、零さんは私の緊張を解すように後ろから抱きしめる腕に力をこめる。
そして、耳元で言葉を続ける。
降:「離れていても、大丈夫」
『ありがとう』
その言葉に色々な思いを込めて、私は零さんに感謝の気持ちを伝えた。
降:「うん…」
そう伝えた後に、軽く耳殻にキスをして零さんは私からそっと、離れた。
私は触れられた場所が熱を持つのを感じて、慌ててその部分を隠す。
『もう!』
降:「ほら、帰るよ」
零さんは悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、私の手を引いて歩き出す。
その表情は、バーボンでもなく、降谷零でもなく…
『トリプルフェイスなのを忘れていたわ』
私は、零さんにだけ聞こえる声でつぶやいた。
降:「君だけだよ?」
『え?』
零さんの予想外の返事に、私は耳だけでなく頬まで赤くなる。
その様子に気づいた零さんは、悪戯っ子の笑みを絶やさずに近くに止めたRX-7へ歩みを進めていった。
(『翻弄されてばかり…』)
私は、零さんと初めて出会った時のことを思い出す。
一瞬にして、私の気持ちを高揚させてくれる彼に感謝しながら、私は後に続いた。
きっと私は、作戦が順調に進んでいたこともあり気が緩み始めていたのだろう。
この後、その失態が招いた事件が起こることを、この時の私は全く予期していなかった。
むしろ、このまま作戦が成功すると信じて疑わなかった。
あの男に呼び出されるまでは…