第6章 コードネーム
降:「僕が言うのもおかしいんだけど…」
ふいに、零さんが声のトーンを落として独り言のように呟き始めた。
『どうしたの?』
降:「こちらには踏み込みすぎないで欲しい」
『踏み込む?』
降:「気分を害したなら、ごめん。ただ、任務を重ねるごとに組織の勢力が増していくこと自体には、良い感情を持っていないだろ?」
『そうね…』
初任務から1ヶ月、ほぼ毎日のように何かしらの任務があった。
そのため零さんと、このセーフハウスで過ごす時間は自然と増えていった。
鋭い零さんのことだから、私の心の奥底に去来している気持ちにもすぐに気づいていたのだろう。
彼と初めて会った時に、「隠すのは無駄」と思っていたことを改めて思い出していた。
降:「僕はもう慣れてしまったけど…君はミアのままの方がいい」
『え?』
降:「ここでも「レーア」になりきらなくて良いよ」
『零さん…』
降:「やっと、その名前で呼んだね?」
『あっ…』
組織の任務に関する会話が増えていたので無意識の内に、彼のことを「バーボン」とばかり呼んでいた私。
そう彼を呼ぶことで、『これは組織の任務。楽しむことじゃない』という私の中での戒めにしていた。
それが結果的に、零さんへ本音を吐き出せないという悪循環につながっていたのだ。
そのことを指摘されて、私は携帯を握りしめて俯いてしまう。
零さんは私が握っていた携帯をそっと取り上げて、そのまま自身の方へ引き寄せた。
降:「ここが、安室名義だから気が抜けないのなら…ごめん」
『ううん』
引き寄せられた私は、自然と彼の胸へ顔を埋めた。
零さんの一言で、隠していた感情が溢れ出して泣き出す顔を隠すように。
零さんは、それに気づいて優しく私の背を撫でている。
降:「僕の前では、ミアで居て。僕もここでは、零だから」
『うん…』
しばらく零さんの腕の中で涙を流し続ける私。彼は黙って、背中を撫で続けてくれた。