第6章 コードネーム
ミアSide
横浜港に入港してきたサンクチュアリ号。
表向きは、シンガポールの大企業が日本法人設立を記念したパーティを船上で行っている。
しかし、その地下施設ではその企業が主催する裏カジノが行われていた。
「ここは狩られる心配もない。心置きなく興じられる」
私の隣でターゲットの男は、勝ち誇った笑みを浮かべながらポーカー賭博に興じている。
相手の男は、額に汗を浮かべながらディーラーに扮している零さんから、カードを受け取っている。
私は「2人とも下手くそ」と思いながら、零さんに視線だけを向ける。
「特に今日は、女神がついている」
男は私の右太ももを撫でながら、私に手札を見せてくる。
『私は選んでいるだけ。元々、貴方が強いんですよ?』
私はそう言いながら不要なカードを1枚捨てて、零さんから新しいカードを受け取った。
スペードのエースが来たことを確認して、私はターゲットの男に耳打ちする。
『レイズ?』
男は答えず、私の腰へ腕を回して抱き寄せながら、その場にあったチップを全て場にだして宣言した。
「レイズ!」
相手の男の顔は一気に青ざめ、カードをチェンジすることなく手札を場に出していた。
結果は明らかでターゲットの男の勝ち。当たり前だ。そう仕組んでいたのだから。
「私が欲しいものは、これに。お役人さん」
チップの横にUSBメモリーを置き、ターゲットの男は相手を見下すように立ち上がる。
「受け取りはいつも通りに。では」
男にお役人さんと呼ばれた男は、黙ってUSBメモリーを上着のポケットに入れてその場を立ち去った。
「さて、次は君かな?女神さま」
男は先程までの表情とは一変して、私に手を差し出してくる。
『賭けは終わりですか?』
答えなどわかっているのに、私はあえて男に問う。
「ここでは、神は狩ることを許されていると思っていたんだが?」
『そうでしたね』
私は口角だけを上げて笑い、男の手を取った。内心で『どこまでも自惚れている』と思いながら…