第6章 コードネーム
降谷Side
朝日が室内に差し込む気配に気づき、僕は目を覚ます。ミアと朝を迎えるのは2度目。
「これから先、何度同じような朝を迎えることができるのだろう?」と思いながら、僕は隣で眠るミアを抱く腕に力をこめる。
彼女が僕に向ける気持ちに恋愛感情が含まれていないことは、百も承知だ。
それでも、彼女を自分の腕の中で閉じ込めたい気持ちを抑えることはできなかった。
降:「共通の敵がいなければ、君と僕は出会わなかったのだろうか?」
彼女を起こさないように、そっと呟いてみる。答えなど返ってくるはずもない。
仮に彼女が起きていたとしても、どう答えて良いかわからないという表情を僕に向けるだろう。
それくらい本来の彼女は、何に対しても純粋で真剣に答えを返してくる。
それを知っているからこそ、昨晩の彼女の言葉が真意でないことも僕は、わかってしまう。
『もぅ貴方しか…見ない…』
組織が僕たちの関係を疑って仕掛けられた盗聴器の前で、彼女の口から出た言葉。
これは、ミアが零(ぼく)に言ったのではない。「レーア」が「バーボン」に言ったのだ。
真実はわかっているのに、僕はその真実を自分にとって都合の良い事実にすり替えようとしている。
それほどまでに、僕は彼女に溺れている。
降:「恋人なんて欲しいと思っていなかったのに」
ミアには決して届かない想いを口にして僕はもう一度、彼女を抱く腕に力を込める。
降:「今は気づかれないように、君の後ろから僕は守るよ」
朝日に照らされ始めたミアの寝顔にそっと口付けて、僕は祈るように呟いていた。