第5章 潜入 ★
『バーボン。コレ、どこの?』
ベルモットが立ち去った事を確認してから、私は彼女が渡してきた黒色のカードを零さんに見せる。
降:「この5枚の花びらがシンボルマークのホテルだよ」
零さんは、黒いカードに鮮やかに輝く金色の花を指し示しながら、答えた。
『ここにもあるのね』
降:「できたばかりだよ。さぁ、行こう」
『え?ルームナンバーは?』
降:「ここに来ているよ」
私に携帯を見せながら、零さんは私に手を差し出す。私は組織の基本的なやり取りは全て、盗聴対策の為メールで済ますことを思い出す。「そんな連絡もメールなのね」と思いながら、私は彼の手を取り倉庫を後にした。
RX−7の車内に戻り、私はベルモットから渡されたもう一つの物を取り出す。すると、横から零さんが無言で手を伸ばし、ダッシュボードから何かを取り出した。彼が取り出した物に、私は見覚えがある。
私も持ち歩いている盗聴器検知とGPS検知が一体化した機械だ。彼が何をするか合点した私は、黙って彼にピルケースを差し出す。
降:「大丈夫だよ」
盗聴器もGPS発信機もついていないことを確認した零さんは私にピルケースを返し、静かに車を発進させた。
『ねぇ、バーボン。どう思う?』
降:「相当、期待されているか、もしくは…」
運転を続けながら、零さんは左拳で軽くハンドルを2回叩く。私は、彼が言わんとしている事を理解して、言葉を継ぐ。
『疑っているか?』
降:「いずれにせよ、結果を出すだけだよ」
それだけを告げて、彼は全面ガラス張りの建物へ車を走らせていった。