第5章 潜入 ★
『レーアよ』
私は、ベルモットの目を見据えながら答える。
べ:「いい瞳(め)をしているわね、あなた」
『お気に召したかしら?』
ベ:「あらぁ。その強気なところも、気に入ったわ」
ベルモットが私の唇に口付ける。
ベ:「避けないのね?」
『貴女から敵意は感じられないので』
べ:「そう…ますます、気に入ったわ」
そう言ってベルモットは私の顎から手を離して、胸元に隠していたピルケースを私に差し出す。
ベ:「必要な時は、使いなさい。貴女は無くすには、惜しい存在だわ」
『ありがとう』
私は、ベルモットから渡されたピルケースの蓋を開ける。そこには、赤と白のバイカラーのカプセルが入っていた。私はすぐに、それが「アポトキシン4869」だと気づく。
ベ:「使った時は、事後報告をしてね。組織で管理しているから」
ジ:「おい、勝手な真似はするな」
ベルモットとのやり取りを黙って見ていたジンが、その様子を見かねて声をあげる。
ベ:「これは、あの方からの指示よ。貴方が文句を言えることじゃないわ」
ジンを見ることなく、ベルモットは告げた。その言葉を聞いて、ジンは舌打ちをしてポルシェへ乗り込みその場を去っていった。
ベ:「あれじゃぁ、モテないわよ。そう思わない?バーボン」
ベルモットは、こちらも黙って成り行きを見守っていた零さんに声をかける。
降:「どうでしょうね?」
ベ:「貴方も相変わらずね」
降:「僕は、任務を遂行するだけですから」
ベ:「そうね…」
ベルモットは、零さんの冷ややかな返事も意に介していないようである。さすが、「千の顔を持つ女」と言われるだけはある。『感情が全く読めないな』と思いながら、私は彼女を見据え続けた。
ベ:「これは、私からの歓迎祝いよ。」
そう言って、ベルモットは一枚のカードを私に渡してくる。
ベ:「明日に備えて、2人で楽しみなさい」
私たちの返事を待つことなく、ベルモットはその場を去って行った。