第5章 潜入 ★
『そういえば、零さんの潜入名を伺っても?コードネームは知っているけど』
降:「安室透です。とはいえ、組織の人間は僕のことをバーボンと呼ぶので、組織ではミアもバーボンと読んでください。ただし…」
彼はそこで一度、言葉を止めてから私の耳元に顔を近づけて、そっと囁く。
降:「セーフハウスでは、「零」と」
私はその言葉で一昨日のことが思い出され、耳まで真っ赤になる。その様子を零さんは面白そうに見ている。
降:「ミアは本当に純粋ですね」
『え?』
私は、零さんの言葉に別の理由で驚く。そう、昨日の赤井さんと同じことを言っているからだ。それをきっかけに、昨日の赤井さんとの事が思い出されて、私は複雑な気持ちを思い返していた。
降:「ミア。どうかしましたか?」
『ううん。なんでもない。続けましょう?』
いきなり黙り込んでしまった私を心配した零さんが、優しく声をかける。私は、彼に気づかれないように、努めて明るい声で先を促した。『今は潜入に集中すると、昨日ボスとも約束したのだから』と自分に言い聞かせながら。
降:「名前もですが、もう一つお伝えすることが」
『何?』
降:「今から僕たちは、恋人設定ですので僕の言動も変えます」
『あ、そうね。私は、このままだけど』
降:「ミア。トリプルフェイスの僕をお楽しみに!」
そう言って、ウィンクする零さん。その表情に私は、また耳まで真っ赤になったことは言うまでもない。