第5章 潜入 ★
降:「おはようございます。ミア」
『零さん、おはよう』
降:「いよいよですね」
『ええ』
私は、夕方に迫った組織への潜入に向けて、今から零さんと最終確認をするところだ。
降:「そういえば、ミア。潜入名を聞いていませんでしたね。今回は日本国籍で潜入するので、必要な書類は全てこちらで用意しているのですが、お名前だけはミアの希望を聞こうと思い、空けていました」
『ああ。それなら…「玄野レーア」はどうかしら?』
降:「ミア。それは、RUMに気づかれるかもしれませんよ?」
『そうなの?』
降:「ええ。レーアは、ドイツ語で「良い知らせ」。それに「玄野」ですと、「黒い良い知らせ」という意味になりますからね。組織を意識していると思われます」
『ひねりが足りなかったかしら』
降:「その考え方は、嫌いじゃないですけど。そうですね…「角野(すみの)レーア」はどうですか?」
そう言いながら、零さんは携帯に文字を打ち込み「角野レーア」と表示した画面を私に見せる。
『角野?』
降:「はい。角野は「墨の」の当て字です。墨は「真っ黒な煤」とか「黒染め」を意味するので、ぴったりかと思いまして」
『ありがとう!それで行くわ』
降:「ご満足いただけて、よかったです。それでは、風見に準備させますね。全て昼にはできると思いますので、受け取ってください。それと、普段の職業は私立探偵の助手です」
そう言うや否や、零さんは素早く携帯を操作して部下に指示を出していた。