第2章 それぞれの思惑
『謝罪なんて。むしろ嬉しいです、零さん。気遣いを頂けて』
降:「当たり前です!これから僕たちは、パートナー。僕は2度と…」
急に彼の語気が強くなったが、すぐに私に誰かを重ねていた事に気付いた彼は、続く言葉を飲み込んだ。
彼は少し後悔するように、テーブルに置かれた自分の拳を見つめている。
その姿を見た私は『また、同じだな』と思い、彼の硬く握られた左手にそっと触れる。
驚いた彼が私へ目を向けたので、ゆっくりと私は口を開いた。
『零さん。勘違いだったら、ごめんなさい。でも、『もしかして』と思ったので』
彼は「何を言われるのか?」と疑問の表情を浮かべながら、私を見つめている。
『貴方も大切な人を組織のせいで、無くしていませんか?』
降:「ええ」
一瞬、迷いを見せたが、彼は素直に答えてくれた。私は覚悟を決め、口調を親しい人へ向ける物へ変えて、本心を打ち明け始めた。
『上層部は知っていることだけど、私の親友も組織に抹殺されたの。潜入中に。あなた方、日本公安から盗まれた情報が発端になって』
降:「申し訳ない」
『謝らないで。私はあなたたちを責めるつもりは、今はないわ。最初はね、あったけど』
彼の反応を確かめながら、私は静かに言葉を続ける。
『最初は、彼女の死を受け止めきれなかった。彼女と私は、仕事のパートナーであり親友だったから。とても大切な人が亡くなって、私の心は穴が空き、同時に組織壊滅の目的が私怨を晴らす事に変わったの』
零さんは、真摯な眼差しを崩さずに私の話を聞いている。