第1章 荼毘 裏夢
「燈矢くん……」
荼毘の背中に手を回し荼毘の胸元で懐かしい匂いを静かに嗅ぐ。
私が彼を突き放したのかな?これは情か愛か、そんなのどうでもよくなる。懐かしい匂い。
「こんなの嫌いになれないよ…」
そう答えると荼毘がをゆっくり離す。
「…。…ヒーローってのは、世界を救うために大切な物を犠牲にするが、敵(ヴィラン)はそうじゃねえよな」
その言葉が暗く殺気を感じる。
暗い部屋、敵らしい不敵な笑みを浮かべの左頬に手を添える
スリスリと愛玩動物を撫でるように、親指を動かす、そのまま指を滑らせの唇を柔らかく押す
「俺はヒーローじゃねぇからな…大義のためなら、世界を犠牲にする」
その言葉は決意のように聞こえた。
夜風に揺れるカーテン、その隙間から差し込む月明かりは、荼毘の姿を薄ら照らしては風の勢いに従い暗闇に戻しては照らす。
「私は、燈矢くんにとっての世界になれたって事かな…?だと嬉しいよ」
クスッと笑う。
時折照らされる荼毘の美しく煌びやかな青い目が捕食者を見る獣のようにギラギラつき輝いている
世界を、贋物のヒーローを、救いのない個性を、死亡扱いで自分の居ない日常を送る家族を憎む荼毘と
何かを憎まず平凡を望む愚鈍な自分とは生きている目線が違うことを自覚させられる。
「言っただろ?俺は敵だ。」
頬に添えていた手をの後ろ首に回し、頭を掴むように指を広げる。
そのまま動かないよう指先に少し指を立て、に口付ける荼毘。
荼毘の爛れた皮膚が触れる。
ホチキスのステンレスの冷たさが顎に伝わる。
無防備なの視界に荼毘の青い瞳が映る。
リップ音を立てて唇を離すと、首後ろに回した手を荼毘自身の方へ抱き寄せる
頬には荼毘の横髪がチクチクと当たる
の左耳に荼毘の唇が触れる
「…」
優しくの名前を呼び頬すりをする荼毘
人肌同士が擦り合うには異質な感触に、ようやくの体がビクつく。
「燈…矢くん…。」
「大人しく襲われてないで、抵抗したきゃするんだな」