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恋はどこからやって来る?(短編・中編)

第69章 彼女の推し / 🌫️



「天才肌のキャラがいるでしょ? 彼がむいくんにあまりにも似てるから、母さんは他人と思えないの」

彼女だけじゃなく、自分の親までこんな事言うんだよね。あいつ、そんなに僕と似てるかな?


母からのメッセージを一旦閉じて、僕は新しくブラウザを開く。

俳優の名前を検索欄に打ち込むと、ずらりとあいつに関連する画像やサイトが画面いっぱいに表示された。

【記憶が混濁する事が多く、人の名前や起こった出来事がなかなか覚えられない】

え? ウソでしょ、こんな所まで一緒なの?

今は寛解したけど、僕は十代半ばの頃の記憶が曖昧で、思い出そうとしても上手く引きだせない。

俳優の経歴が書いてあるページの文字を追っていたら、スクロールしていた人差し指がピタッと止まった。

改めて彼の顔が掲載されているページを見る。
髪の長さは腰の辺りまで。無気力でぼうっとしている目元。


「お待たせ。ふろふき大根と唐揚げー」

「兄さんありがと」

「おー、じゃまたな」

画面を閉じずにスマホを近くに置くと、視界に入ったらしい七瀬が瞳をキラキラさせながら僕のスマホを覗きこんだ。

咄嗟に画面を閉じて、奪うように好物がのった小皿を引き寄せる。


「ねえ、無一郎くん。一緒に映画観に行こうね」

「僕が嫌だって言ったら、君どうするの」

「そんな冷たい事言わないでよ〜」


俳優に嫉妬なんて自分でも馬鹿らしいって思う。


「でも無一郎くんは何だかんだ言って付き合ってくれるよね?」

「さあね」

ふふふと含み笑いを浮かべる七瀬をスルーして、ふろふき大根に箸を持っていき、口に運んだ。

「…美味しい」

「いいな〜私も食べたいな〜」

「ダメ、君は唐揚げ頼んだでしょ」







今年も夏がやって来る。七瀬と過ごす初めての夏だ。


唐揚げを食べる彼女の笑顔を見ながら、最後のひとかけらになった好物を僕はゆっくりと口に入れた。




〜終わり〜



→次ページから有一郎くん目線あり。

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