第72章 お題夢「冬」+ α / コミュニティ内で募集
買い物を言いつけられて寒い外に出て、市場へ向かう足は少しずつ軽くなる。
今日はいるかな、
会えるかな。
市場に着くと八百屋さんの前にその人はいた。
白でいっぱいの景色でも一目で分かる火のような色の髪。
「あ、はるなさん!こんにちは、今日は一段と寒いですね」
「こ、こんにちは、千寿郎さんっ」
こちらに気づいた千寿郎に笑いかけられると、火鉢もないのにはるなの胸の奥がふわりと温かくなる。
「今日はどんなお買い物なんですか?」
「足りない食材の買い物です。白菜と大根と昆布と……」
貧しい村で育ったはるなは物心ついた頃から田畑の手伝いばかりで尋常小学校の勉強にはあまりついていけていなかった。
奉公に出されて初めて言いつけられた買い物で代金を計算できず、途方に暮れていたところを千寿郎に助けてもらったのが今年の春。
それ以来、いつも千寿郎に計算を教えてもらいながら買い物をするようになった。
途中で計算が分からなくなっても彼は怒ることなく丁寧に教えてくれる。
はるなはこの時間がたまらなく好きなのだ。
「そういえば昨日乾物屋さんが良い昆布を仕入れたと言ってました。もしかするとおまけしてくれるかも」
「おまけ……というと安く買えるかもしれないということでしょうか……?」
「はい!うちでもちょうどなくなりそうだったので一緒に行きませんか?」
千寿郎の言葉にはるなはこくりと頷く。
まるで春の日差しにあたっているような心地がする。
“嫌い”ばかりだった冬が前よりも嫌いでなくなったのは間違いなく千寿郎のおかげだ。
―了―