第66章 クリスマス🎄お題夢 / コミュニティ内で募集
「大きな声で言えないけど……あの女神像、先月のビル倒壊事故の現場から院長が引き取ったって話。院長がクリスチャンでね、像がマリア様に似てるんだって話してたらしいよ。瓦礫の中から見つかったのに傷ひとつ無い状態だったし、『助けを求める女神様の声を聞いた気がする』って、言ってたとか」
それを聞いた瞬間、恵の背がゾワっとした。
過去の様々な経験を踏まえて弾き出される答えが、己に警鐘を鳴らす。
都市伝説の噂が広まり始めたのは、ビルの事故の少し後。つまりは、あのいわくつきの女神像も無関係ではない。
「伏黒……同じこと考えてる?」
2人の目つきは途端に鋭くなり、互いに目配せした。そして同時に頷く。
「とりあえず、新田さんに報告すっか」
「まずは、これ以上呪霊が湧く前に女神像を高専が回収。行方不明者の件は、聴覚を操る術式か式神使いの呪詛師が『星の女神』である想定をした方が良さそうだ」
足早にナースステーションを離れて廊下を歩きだした彼らを、看護師たちは不思議そうに見送った。
時刻は過ぎていき、地を這う冷気が夜を染め上げていく。
凍りついた窓の外には、降り積もった白銀の世界が広がる。規則正しい病院の日常ならば、皆が深い眠りを迎えている時間帯。
「玉犬を配置した。紅井 華乃に何かあった場合や、想定外の場所に呪霊が出現した時は、俺に知らせてくれる。わざわざ設置した女神像に何かしようとすれば、呪霊にしろ、呪詛師にしろ、向こうからアクションがあるはずだ」
そう言った恵の口から、細く白い息が漏れる。
夜天に浮かぶ月明かりだけが光源となる、深い闇を湛える真夜中の1時。
院内には、深夜特有の張り詰めたような静寂が満ちている。