恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「? 何で笑うの。僕おかしい事言ったかな」
「ようやく名前を聞かれました……」
右拳を顎にあてながら小首を傾げていた無一郎は、ここでようやく合点がいったようだ。
「そうだった」と言いながら、七瀬の左手をきゅっと握る。
自分の名前を彼に告げる彼女は先程と変わらず緊張しているが、心臓が跳ねる回数は減少した。
「ふうん、沢渡七瀬って言うんだ。じゃあ七瀬」
「え、は? はい」
無一郎にいきなり名前を呼ばれた彼女は、せっかく落ち着いていた鼓動が再び急ぎ足を始めてしまう。
まさか呼び捨てにされるとは。
顔も背中も少しずつ熱くなるのに、目の前の無一郎はいつもの無表情のままである。
「僕、実はこう言う事初めてなんだ。だから口付けから先が全然わからないから、教えてくれる?」
「え? は、初めて?」
「……嫌?」
「嫌では……ないです」
「そう、良かった」
この余裕は一体何なのだろう。
七瀬は無一郎より四つ上で初体験もとうにすませている。
『初めてって…もっと緊張する物だと思うんだけど。やっぱり柱だから感覚が一般隊士の私とは違うんだろうな』
勇気を出した彼女は「霞柱は全然緊張しないんですね」と問いかけてみた。すると ——
「君がこの部屋に…いや、この家に入った時から心臓の鼓動がありえないぐらい速いよ。ずっと戸惑ってる」
「えっ?? 全く、そんな風には見えない、です…」
まさかの返答が無一郎から飛び出た為、七瀬はますます頭が混乱した。まばたきの数が増え、彼に握られた左手が熱を帯びてくる。
「胡蝶さんや宇髄さんにも何を考えてるのか全然わからないって言われたよ。咄嗟に言われた事とかよく忘れちゃうんだけど、繰り返し言われた事は記憶に留まるみたい」
咄嗟の事はよく忘れてしまう。それでは今夜の出来事も忘れてしまうのだろうか。
少し寂しいな。
七瀬はそんな事を感じた自分に、驚いてしまった。