恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「それじゃあ僕戻るから」
「は、はい…あ、あの霞柱? どう、されまし、た?」
脱衣所まで案内した無一郎だったが、どう言うわけかその場に留まっている。すぐに動かない彼を疑問に思った七瀬は、無一郎の返答をゆっくりと待つ。
すると ———
「うん、なるべく早く……戻って来て」
「!!! はい……」
大きな手拭いを持っていない方の手をきゅっと握られた七瀬は、鼓動が一気に跳ね上がる。常に無表情、無関心の無一郎が見せた甘えの仕草に、心が乱されてしまった。
手を離す瞬間まで名残り惜しそうに、ゆっくりとした仕草で七瀬から離れた無一郎は静かに脱衣所の扉を閉める。
『え、えー! あれホントに霞柱?? 凄くかわいい…母性本能が刺激されちゃった……』
どんどん上昇する顔と体の熱。全身を使って深呼吸をした七瀬は、何とか湯浴みを済ませて脱衣所を出た。
「失礼、します……」
襖を恐る恐る開けた先には、敷かれた布団の中央に正座した無一郎がいた。先程まで乾き切っていなかった長い髪が行燈の柔らかい光に当たると、つやつやとしているのが確認出来る。
「遅くない? 少し待ちくたびれちゃったよ」
「…緊張、しているん、です……。だから体を洗うのも服を着るのも時間がかかって……」
一歩足を進めて立ち止まり、また一歩足を進めて立ち止まる。それを五回繰り返すと、足の指の先に敷かれた布団が静かにあたった。
「座ってよ」
「は、はい」
緊張感が全身にまとわりつく中、七瀬が腰をおろす。
すると霞柱はゆっくりと彼女に近づいて口を開いた。
「そう言えば聞いてなかった気がする…。君の名前は?」
「え? 今ここでそれを聞くんですか?」
——— 瞬間、七瀬の体が脱力する。確かに名前を聞かれていなかったなと思い出す彼女だ。
ややずれた頃合いで問いかける無一郎が微笑ましくなり、ここでようやく七瀬の顔に笑みが宿った。