恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「そう、じゃあ付いて来て」
「はい…」
静かに背を向けた無一郎に倣い、七瀬は彼の後ろをつかず離れずの距離を保って付いて行った。
途中いくつかある部屋を通り過ぎ、その間にここが浴室だと教えられたが、緊張して心が忙しなかった彼女はあまり覚えていない。
「ここ、僕の部屋。待ってて」
「え、あ…あの、客間でかまわ……」
無一郎へ伸ばした七瀬の右手は虚しく空を切り、彼の体に触れる事は叶わなかった。
仕方ないと腹をくくった彼女は襖を静かに開け、中に足を進める。
霞柱の自室は驚く程物が無く、文机と小さな箪笥(たんす)、本棚には数冊の本があるのみで、彼が先程まで左手に持っていた日輪刀は既に太刀掛にかけられていた。
『広い部屋なのに、物がこれだけ……霞柱の性格が何となくわかるなあ』
ぐるりと部屋を見まわした七瀬は、持っていた日輪刀を無一郎の刀の隣にある予備の太刀掛にかけた。
図々しいかなと一瞬頭を過ったが、畳に直に置く方が失礼だなと思った為である。
壁に掛けてある時計は午後十一時を回った所で、屋敷の周囲からは人の声はとんとしない。
静かな空間に時計の針がカチカチと動く音のみが響く。
ひとまず畳に腰をおろした七瀬は、非常に落ち着かない様子で、視線を忙しなく動かして無一郎を待った。
十五分後、襖が開くと寝巻きに着替えた霞柱が入って来る。
髪には大きな手拭いを巻きつけており、両側から押さえつけるように髪を拭いていた。
「君も入ってきなよ。寝巻きと手拭いは隠の人が用意してくれてるから、好きに使って」
「はい、わかり、ました……でも、その。申し訳ないのですが」
緊張しているので、先程教えて貰った浴室の場所がわからない。
正直に七瀬が言うと、えーとほやく無一郎だったが、すぐに付いて来てと部屋から出て行った。
その後を慌てて付いていく彼女は、まだまだ緊張の糸が途切れない。