恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「……」
握りしめた七瀬の両手にグッと力が入る。先程までの飄々とした雰囲気からは予想出来なかったが、やはり鬼なのだ。
しかし、九百九十九人の人間を喰った悪鬼は千人目となるはずだった自分が、つい今し方頸を斬った。
「五条大橋の牛若丸と弁慶みたいだね。場所は違うけど、ここ京都だし」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ。確かにのう。一つ違うのはわしは嬢ちゃんの家来にならずに、死んでしまう事じゃが…おい、忘れるな。早く、血に触れろ」
「そう、だったね」
ふう、と短い息をはいた七瀬は、小さな水たまり程の大きさの血液に恐る恐る右手の人差し指を伸ばしていく。
指の腹をほんの少しだけ触れさせた後は、素早く下がり、鬼が姿を無くしていく姿をまた静かに見つめる。
「そうじゃ……これも言うとかんと……!」
「う、うん。何、かな」
対象となる柱七人の内、一人でも本気で好きになってしまうと、たちまち能力は失われる。故に心しておけ。
これに対し、七瀬の返答は「それはないと思うから、大丈夫」ときっぱりと言い放った。
「だって柱の人達は確かに強いけど、みんな変わった人ばかりだからさ」
「そうは言うても情が移る、なんて事もあるぞい。じゃあの、嬢ちゃん!」
サラサラと粒子になりながら、暗闇に溶け込んでいた鬼はとうとう完全にその場から存在を消してしまった。
頸はもちろん胴体も全く見当たらず、残されているのは血痕のみである。鉄のにおいが鼻に届き、一瞬顔を歪ませる七瀬だが、目を閉じて風変わりな鬼の事を思案する。
『鬼って言うより、町中で暮らしていそうなおじいちゃんって感じだったなあ。特に体に変化はないみたいだけと、本当に媚薬体質になってるのかな』
柱のみに効果を発揮する媚薬とは一体。
いくら考えても思うような答えは得られない —— そう確信した七瀬は、一度だけ手を合わせた。