恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
ここに来て初めて己の本性を出した鬼に、威勢が良かった七瀬の心がきゅっとしぼみ始めてしまった。
飄々とした雰囲気を保っていた龍に、彼女は刀を構えていながらも毒気を半分以上抜かれていたようである。
「願いを叶えるのじゃろう? 早くわしの頸を斬ってくれい。じゃないと先程も言った通り、嬢ちゃんを喰ってしまうぞ」
顎下をゆっくり触れる真似をした鬼は、青色の双眸を赤く変化させていく。
『何なの、これ! さっきと全然違うじゃない!… 斬らないとホントにやられちゃうよ』
恐怖心がどんどん膨れ上がる七瀬だが、そこは曲がりなりにも鬼殺隊士。
ゆっくりと深い呼吸を複数回繰り返すと、ドクドクと必要以上に動いていた鼓動がだんだんと元の拍動に戻っていく。
「水の呼吸・伍ノ型 —— 干天の慈雨」
紺色の刀身の得物を一振りすると、ザシュッと目の前の鬼の頭が胴体からずれた。
先程七瀬が斬られても鬼側は痛みを感じないと言っていた技がこれである。
地面にトンと落ちた鬼の頸は転がる事なく、静かに空気と一体化をし始めた。
「ねえ、何で私だったの?」
刀に付着した血を一度振り払うと、ゆっくりと刀身を鞘に納めた七瀬。それから頸の前にしゃがんで、鬼に話しかける。
「決めておったんじゃ。次に会う鬼狩りにこの力を授けようと」
五百年の時を鬼として過ごした龍は、その間に九百九十九の命を喰らっている。捕食の数が九百人を過ぎた時、ある変化が訪れた。
無惨の名前を口にする事が出来たと言うのだ。
鬼の始祖の手で鬼と化した者は、彼の名前を口に出すと内部から体が破壊され、死んでしまう。
呪いとも言うべきこの宿命がどう言うわけか、外れてしまったのだ。
「無惨様の支配から逃れたのだと気づいた時から、人間を喰う事が途端に嫌になってのう。九百の命を奪っておいて何を言うんだと思うじゃろうが……」