恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「えっ、えーーー!! そんなの無理だよ、絶対無理無理ー!!」
ぶるぶるっと体が震えた七瀬の両腕から一瞬ずり落ちる日輪刀。
はっと条件反射でそれを受け止めて、再び構え直した彼女はブンブンと頭を左右に振った。
柱一人だけならまだしも、柱全員とのまぐわい。
あわあわとしている七瀬を見ながら、龍の鬼は「その為の媚薬じゃろう」とゆったりと落ち着いた声色で諭す。
「わしの血鬼術は五百年の年季が入っとるからのう。そんじょそこらの術と違うて、かなり強力じゃ。嬢ちゃんが懸念する事はなーんもないぞい! たかだか二、三十年生きとるだけの小童の精神力なんぞ造作もないわ」
再び左右に生えた長髭をゆらゆらと動かした鬼は、右前足で顎下を慎重にさすった。
古来より龍の顎下には八十一枚ある鱗の内、逆さに生えている鱗が一枚だけ存在しており、これが【逆鱗】と呼ばれている箇所でもある。
「嬢ちゃん、決断の時じゃ。わしの逆鱗の周りが大分熱を持っておる。逆鱗に触れると言う慣用句を聞いた事はあるか?」
「えっ、げき、りん??」
逆鱗に触れる。
龍は元来人間に危害を与える事はないが、喉元の「逆鱗」に触れられることを非常に嫌う。
その為これに触れられた場合には激昂し、触れた者を即座に殺すとされていると言う意味の事である。
「決断せぬなら、残念じゃが嬢ちゃんをこの身におさめるまでの事よ」
穏やかな目元と声色であった鬼の双眸が、一瞬カッと見開かれて冷たい感情を表出した。七瀬の周囲の空気が急にひんやりと変化していく。
どうやら本気で言っているようだ。
奇想天外の誘いをいまいち信じきれていなかった七瀬だが、ここに来て、隊士としての本能が【死】と言う概念を脳内に引き寄せていた。
「人は死んでしまうと、何もかも終わりじゃろう? 本来鬼であるわしの役割は人間を捕食する事じゃしなあ」