恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「嫁さんに出会うまでの俺は、どうしようもない人間でさー。女にも金にもだらしない。どう言うわけか剣の才は人よりあったみたいだから鬼殺をしていた。天涯孤独だったし、取り柄も他になかったから食って行く方法も鬼殺しかなくてね」
「……」
伴侶となった女と暮らし始め、一年たった頃 —— 二人の間に子供が生まれた。
「将太を初めて腕に抱いた時、俺死ねないなって凄く思った。今まで感じた事がない考えで驚いたよ」
鬼殺をしている限り、死は常に自分の側に日常として顔を見せる。
同期は自分以外、皆(みな)鬼に殺されてしまった。
「今日も明日も明後日もその先もこいつの親でいたいし、嫁さんの夫でいたい。鬼にやられて命を落とすんじゃなくて、俺は自分の寿命が自然に尽きる時まで家族とこの家で暮らしたい。そう思ったから鬼殺をやめたんだ。お館様は俺の意見を尊重してくれてね。ただそれと同時に育手になってみても良いんじゃないかって打診された」
子供の成長を近くで見る事は叶ったが、もう一方の【子供】と言える存在 —— 己の弟子との別れは数多く経験した。
「七瀬。これから君が歩もうとする道は今まで親しくして来た人、これから親しくなる人とあっけなく別れが訪れる世界だ。周囲の人間だけじゃなく、自分の命だってあっけなく終わる事もある」
—— だから出来る限り長生きしなよ。
ポンと七瀬の両肩に安藤の掌が載せられた。
何人もの命を守って来たその手はあたたかく、固い。じゃあね、と普段と何ら変わりない安藤の態度。
彼の顔を改めて見た七瀬は、目頭が熱くなるが、必死で我慢をしながら礼を言った。
昨日まで安藤の口まわりには無精髭が存在していたが、今朝剃ったのだろう。本来の彼の容姿がそこにあった。
大きく丸い目と相まって、歳よりも若く見える安藤は「いってらっしゃい」と弟子の背中を押したのである。
「いって来ます!」
こうして七瀬は鬼殺隊士としての一歩を踏み出した。