恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
その後八王子駅に着いた七瀬は浅川駅に向かう電車に乗り換え ——
「えっ!! 高尾山の麓まで三十分ですか…」
「こっからだと歩いていくしか手段ないんだよ。電車も開通してないしねぇ」
うーん……と駅舎内に設置してある長椅子に腰掛けた七瀬はしばし逡巡した。
季節は夏。
それも盛夏(せいか)と呼ばれる一年で一番暑い時期だ。
現在の時刻は午後二時。
太陽は南天の真上から少し西側に位置を移しているが、少し歩けば背中に汗がじわっと滲む気温である。
持っていた竹筒を上下に二回振ってみると、ちゃぽちゃぽと液体が揺れる音がするが、入っている量は半分以下だ。
宿を探そう…と一瞬思ったが、駅前とは言え、人通りが多くはなさそうな周辺にあるのだろうか。
ダメ元で駅員に聞いてみると案の定、ここから二十分歩かないとないと言われる。
行こう。
清水の舞台から飛び降りる気持ちで、家を出て来た七瀬に、来た道を引き返すと言う選択は皆無であった。
駅員に礼を告げた彼女は、一路高尾山の麓を目指してゆっくりと歩き始める。
★
「着いた……ここだ」
三十分後、七瀬は汗だくの状態で目的の場所へたどり着いた。ややくたびれた木の表札には【安藤】と書いてある。
彼女が手に持った小さな紙に書かれている苗字と同じだ。
「こんにちは! 突然申し訳ありません。沢渡七瀬と申します。安藤さんはいらっしゃいますか??」
心臓の鼓動が右肩上がりで上昇し始める七瀬。
自宅を出た勢いだけでここまで来た彼女は、ようやく緊張を感じ始めている。
「はーい、今いくよー」
聞き覚えのある穏やかな声色が、門扉まで届いた。急な訪問にも関わらず、安藤であろう本人は特に慌てる事なく、屋内から出て来た。
「お、あの時のお嬢さんかあ。いらっしゃい、よく来たね」