恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第66章 七支柱春药 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「姉さん? いやー見てないよ。また鬱憤はらす為に町へ出かけたんじゃない?」
「あのじゃじゃ馬、とうとう家出か」
「ほら、兄さん。俺の言った通りになったじゃん」
「七瀬は力が有り余ってるからなあ。元気で良き良き!」
息子三人と夫に七瀬がいなくなったと言っても、皆(みな)まともに取り合ってくれなかった。
まさかそんな。
春奈は先程の確信がガラガラと足元から崩れる感覚がした。両足で地面をしっかり踏みしめている事に間違いはない。
ないのだが、心の足場がどうにも不安定になっており、平常心を保つのが難しくなっているのだ。
いつからか七瀬は春奈に対して反抗的になった。
思春期を迎えると、誰しもが経験する事であるが、七瀬の場合は下の弟が生まれた数年後に、早くもその反抗期を迎えてしまったのだ。
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「母さんはいつも私を見てくれない。兄貴達と博己ばっかり!! 私、凄く剣術上手くなったんだよ?? 肉刺(まめ)だってたくさん出来たし、痛いし、凄く苦しい時もあったけど、頑張ったらお母さんが私を見てくれるかなって……」
春奈がある日洗濯物を干している時、道着姿の七瀬は上衣の合わせ部分をグッと握りながら己の母親に訴えた。
左手は竹刀の柄を力一杯握っており、言葉だけではなく、全身で不満を表している。
「七瀬、あなたは剣術より大事な事があるでしょう? 二軒先のお宅のききょうさんはご結婚が決まったそうよ。お相手は呉服屋の跡取りですって。器量も人柄も申し分ないって聞いたわ」
“いい加減お嫁に行く為の準備を始めなさい。女はどんな人を夫にするか、どんな家に嫁ぐかで人生が決まるのよ”
春奈は娘の訴えをまるで聞かずに、いつものように女が結婚する事の重要性を説いてみせた。
瞬間、七瀬からこの世の終わりが来たと言わんばかりの、深く長いため息が口元から出る。