恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第65章 恋の継子、二つの蛇に睨まれる / 🐍
「申し訳ございません、蛇柱様はここ一週間県外の任務に行かれてまして……。昨日文が届いて、帰宅は明日か明後日になりそうだと言う事でした」
『これですっぱり諦められる。やっぱり師範を応援しろって事なんだ』
一度立ち止まり、後ろを振り向くとまだ蛇柱邸の門扉が視界に入った。七瀬の両の目頭が熱を持ち、じわっと瞳の中を濡らしていく。
『初めて蛇柱に会った時から、私は彼に恋をしていたんだ』
絶対に無視される。そう思っていたのに、自分の挨拶に小さな声ながら返答をしてくれた小芭内。
左右違う色の双眸も気味が悪いどころか、綺麗だと感じた。素敵だと自分の心が素直に反応したのだ。
『好きですって……伝えてたら何か変わったのかな』
ポロポロと両目から流れ出す涙を指で拭うが、とても間に合わず、隊服や羽織に小さな雫がぼた、ぽた、と楕円の染みを作る。
「沢渡、貴様こんな所で何をしている?」
「えっ!? へ、蛇、柱?? えー! どうして、いらっしゃる、ん、ですか?」
後方から七瀬に声をかけたのは、今彼女が胸の中に思い描いていた小芭内本人であった。
隠から先程帰宅は明日以降になるだろうと聞いたばかりだ。
たった今、彼への思いは心の深い深い場所に沈めようと決めたばかりだったのに。
「任務帰りだ。おい、俺の問いにも答えろ。何故貴様がこんな場所にいるのだ?」
「は、はい! えっとですねー」
鏑丸が小芭内の首周りをススッと静かに回り、先が二つに分かれた小さな舌を七瀬に見せる。
『どうしよう、どうしよう。さっき諦めようって決めたけど! 決めたけど ——— 』
「あの! 蛇柱!」
「だからどうした? 早く先程の問いに答えろ」
再び心臓の鼓動の速度が増す七瀬である。