恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第65章 恋の継子、二つの蛇に睨まれる / 🐍
七瀬の両目からほろり、ほろりと流れて来たのは、あたたかいが塩辛い涙だ。
蜜璃から直接言葉をかけてもらったわけではないが、視線で彼女の激励を受けた七瀬は、全力で風柱に立ち向かっていった。
自分の試合運びを事前に何度も何度も思い描き、実弥と同じ風の呼吸を使う男性隊士に頼みこみ、『仮想風柱』と名付けた自主稽古にも励んだ。
蜜璃との実践稽古も今まで以上に、真摯に取り組んだ。
しかし —— それでも実弥に勝つ事はできなかった。
「柱が相手でも、最初から負ける前提で戦うのはダメだって…それにそう考えるのは風柱に対しても失礼だからって…自分を奮い立たせて挑みました」
「うん、うん。それはあなたの戦い方を見てて、凄く伝わって来たわ!」
「師範…私、もっと強くなりたいです〜!とっても悔しいです〜!」
うわあん、と本格的に泣き出した七瀬を、蜜璃はぎゅうと抱きしめた。
そんな師弟の二人を少し離れた所から見ているのは ——
「かつての継子が己の継子を労い、その継子は師に本音を吐く。親になったような気分だ!!」
「俺は勝ったてェのに、心臓のあたりが妙にむず痒いぜ…」
ワハハと豪快に笑っている杏寿郎の横で、木刀を右肩に乗せながら左手で胸の中央をさする実弥だが、その表情に険しさはなく、毒気が抜かれている。
小芭内は七瀬と勝負をしてくれた礼を実弥に伝え、杏寿郎には多忙の中ここまで足を運んでくれた礼を伝え、帰宅しても良いと促したが、炎柱はその場に留まったままである。
実弥が後ろを向いて歩き始めるのを確認した蛇柱は、ふうと包帯の中で静かに息をつき、七瀬と蜜璃がいる場所まで歩き出した。
「蛇柱、申し訳ありません……。せっかく尽力して下さったのに、負けてしまいました」
涙を拭い、うなだれる七瀬の背中をさする蜜璃だ。
「案ずるな、想定内だ。貴様が不死川に勝つなどありえはせんと最初から思っていた」
「え…ええ〜?? そう、なの、ですか?」