恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第65章 恋の継子、二つの蛇に睨まれる / 🐍
「こんなに気分が高揚する手合わせは久しぶりだぜェ。煉獄と伊黒の指導に耐えた上に、甘露寺の継子だ。潰し甲斐があるってもんだァ」
「ひっ……! あの、風、柱。どうぞお手柔らか、に…」
だが、この実弥の言葉で七瀬の体に再び緊張感が走り抜け、またも厠(かわや)へと姿を消してしまった。
「七瀬ちゃん、大丈夫かしら? 落ち着いたと思ったら、また家の中に入って行ってしまったけど……」
蜜璃は「継子を潰されたら困るわ!」と、心の中でやや憤慨しながらもそれは決して表には出さなかった。
彼女も実弥の発言が怖かった為である。
どうやら恋の師弟の間では【悪い人ではないけど、風の柱は恐ろしい】と言う事実が、共通認識として暗黙の了解になっているようだ。
「甘露寺、あれは不死川なりの激励だ」
「随分と挑戦めいた激励だがな!! ほら、沢渡少女も戻って来たぞ」
「伊黒さんも煉獄さんもありがとう…」
小芭内と杏寿郎の助け舟により、蜜璃の心も落ち着きを取り戻した。七瀬は緊張している事に変わりはないが、師範と視線を交わすとその双眸に力強さが宿った。
『相手が不死川さんでも、今日まで積み重ねた事をしっかりと出せばきっと大丈夫! 七瀬ちゃん、頑張って!!』
蜜璃は右手と左手を共に胸の前で握り拳の形にすると、継子の目をしっかりと見てかすかに頷いた。
『師範の激励、凄く元気が出る……!! 私、最後まで風柱に喰らいついていきますね!』
七瀬と実弥は共に隊服姿で、手に持っている得物は木刀だ。
「俺が審判をやろう!」と颯爽と立ち上がりかけた杏寿郎を柔らかく制し「お前は昨日まで遠方任務だっただろう」と腰を上げたのは小芭内。
『伊黒さん……! 本当に気遣いが出来る人ね!』
ぽぽぽぽ、と蜜璃の両頬が自身の髪の色よりも濃く染まる。
「あまり時間がない。勝負は一本のみでいくぞ。では —— 始め!」
恋の継子と風の柱の一本勝負が、開始された。