恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第65章 恋の継子、二つの蛇に睨まれる / 🐍
「凄い! 凄いわ、伊黒さん! 私が日頃から七瀬ちゃんとの稽古で思っている事を全部文章にしてくれてる……!!」
「えっ、全部ですか?」
「そうなの!!」
【沢渡七瀬 様
沢渡、貴様は何故こんなに手間をかけさせるのだ。 水の呼吸の分析を一からやっていたら膨大な枚数になったぞ。
俺の時間を直ちに返せ…と言うのはいささか大袈裟だが、貴様に手合わせの場を設けてやる。甘露寺の継子に相応しいか、それから煉獄と俺の指導が間違った物ではなかったか。試験のような物だな。
その相手は ——】
「えー!! 七瀬ちゃん、凄いじゃない!! 不死川さんと稽古するのー??」
「師範…私……泣きそうなんですけど」
「もう涙出てるわよ〜嬉しすぎて感激したの? 甘味でも食べる?」
瞬間、ふるふると力一杯首を振った七瀬は「違います! 逆です〜」と、大粒の涙を流し始め、あらあらと苦笑いする蜜璃にぎゅうと抱きついたのであった。
不死川、とは勿論風柱の不死川実弥の事である。
実弥は傷だらけの見た目と鋭い三白眼の目つき、それから隊士を威嚇する物言いと振る舞い。
これらの様相から鬼殺隊のおよそ九割の人間から恐れられている人物だ。
「だって…! 風柱、合同任務の時に【全く役に立たねェ、邪魔だ、失せろ】って言って私と一緒にいた二人を追い返したんですよ〜」
「そ、そうなのね! それは辛かったわね…」
変わらず自分に抱きついたまま、わんわん泣く七瀬の頭を撫でたり、背中をさすって気持ちを落ち着かせている蜜璃はその様子を想像する。
『確かに凄く怖いかも!! でも……』
一般隊士を連れて行くより、柱の自分一人で戦った方が犠牲が少なくて済む。そんな理由から七瀬達を先に帰したのではないか。
もちろんこれは想像でしかないが、蜜璃も実弥と同じ柱なのだ。
彼女は何となくそんな事を思案する。