恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第65章 恋の継子、二つの蛇に睨まれる / 🐍
「 ——— 委蛇斬り(いだぎり)」
グンっと小芭内は七瀬との間合いを詰め、横薙ぎの一太刀を振るった。木刀が描く軌道は単純な物ではなく、蛇の動きのようにくねくねと曲がりくねっている。
『予測がしにくい!! どうしたら……』
「遅いぞ」
「うっ……」
ほんの一瞬の隙であったが、小芭内は迷いが生じた七瀬の木刀をカンと打ち払った。
「ありがとう…ござい、ました…」
「悪くはない太刀筋だったが、聞いている通りどれも決め手には欠けるな。積極性も殆ど見られない」
「はい……はあ、そこ…に一番、はぁ……悩んで、て……ふぅ」
ぜいぜいと息が切れている七瀬に対し、呼吸の乱れが少ない小芭内。互いに礼をした後、彼女は蛇柱より木刀を受け取り、普段たてかけてある場所へと歩いて行った。
「伊黒さん、七瀬ちゃん、お疲れさま〜!! 手拭いどうぞ。お茶も用意してるわよ」
「ありがとう、頂こう」
蜜璃が彼に駆け寄ると、それまで厳しかった表情が一変して、小芭内の雰囲気が途端に柔らかい物になる。
彼の顔を流れているほんの少しの汗。それを拭き取った小芭内は蜜璃から麦茶を受け取った。
『うわぁ……何か恋人同士みたい』
切れた息を整えながら、二人を見つめる七瀬。
いつも以上に朗らかな表情を浮かべる恋柱、その横で穏やかな視線を送る蛇柱。
微笑ましい光景だが、七瀬の胸中に宿るのは、心臓をチクっと刺激される小さな痛みだ。
『私はまだ恋愛経験がないから……きっと恋に恋してるだけだよね』
小芭内を初めて見かけた時に芽生えた、微々たる種。
気のせいだろう —— 彼女は自分の心に咲きそうな恋の種子を、それ以上育てないように胸の奥底に埋めてしまった。
『大好きな師範があんなに楽しそうにしてるんだもん。それが一番!!』