恋はどこからやって来る?/ 鬼滅の刃(短編・中編)
第65章 恋の継子、二つの蛇に睨まれる / 🐍
「ふふ、伊黒さんらしいわ。とっても恥ずかしがり屋なの」
「師範は蛇柱の事を、よくご存知なんですか?」
「うーん。まだわからない事もあるけど、手紙のやり取りはよくしてるし、食事も任務の合間をぬってたまに行ってるわ。遠方任務に行った時は珍しい物を買って来てくれたりもするわよ〜」
「そう、なんですね……」
七瀬は隣に座っている蜜璃の雰囲気が、とても甘い物に変化している事に気づく。
一度だけすれ違った時、異人のようで怖いと聞いた左右違う色の双眸と視線が交差した七瀬だが、怖いよりも綺麗だと何故か感じたのだ。
『首に巻いてる白蛇も怖くなかったんだよね』
彼女は爬虫類や両生類が大の苦手である。
それ故、田舎や山、梅雨の季節の任務はなかなか憂鬱になるのだ。
蜜璃に白蛇の事を聞いてみると【鏑丸】と言う名前で呼ばれているようだ。鏑丸は知能が高く、賢い蛇だとも。
「今私がこうして話すより実際に接してみた方が、より伊黒さんの事がわかるわよ。楽しみね、稽古の日が」
「はい……」
七瀬が皿に手を伸ばすと、桜餅がちょうど残り二個になっていた。目が合った蜜璃と同じ頃合いで手に取り、パクリと口に入れる。
『蛇柱……一体どんな人なんだろう』
葉っぱのしょっぱさと桜餅の甘さが口の中で混ざり合い、口内も心も満足感でいっぱいになった七瀬は、そのまま三十分ほど蜜璃と小芭内の話をした後、任務へ行く準備を始めたのである。